研究概要 |
前縁・前弧域の海盆と付加体の有機物濃集システムを明らかにするため,H16年度は,日本の前弧域で唯一油田を有する静岡地域において,石油根源岩層特定のための地質調査および有機分析を行った.今年度の成果は,以下のとおりである. (1)相良原油 a.相良原油(相良町新田および大和ヶ谷から採取)は被子植物起源であるオレアナンを多く含み,新潟地域の頸城型原油と類似している. b.同原油について予察的な培養実験を行ったが,炭化水素生成細菌HD-1株は検出されなかった. (2)掛川地域に分布する古〜新第三系前弧海盆泥質岩 a.全有機炭素(TOC)濃度は全層準で1%以下の低い値を示す.中部中新統倉真層群真砂泥岩層・西郷層群は,0.22〜0.53%,下部中新統倉真層群松葉累層は0.17〜0.45%,始〜漸新統三倉層群川口層上位層で0.41〜0.65%を示した.この地域では,倉真層以下が石油生成帯の熟成度に達していた. b.倉真層群松葉累層は,特に有機物に富んでいるわけではないが,Oleanane/Norhopane比が高く,相良原油と同程度の値を示した.松葉層堆積時には,前期〜中期中新世フォッサマグナ活動によって周辺堆積盆の沈降が始まっており,併せて温暖な気候のもと被子植物を含む陸成有機物の流入が活発だったと考えられる。 (3)島田地域に分布する古〜新第三系付加体泥質岩 付加体堆積物は,古第三系では全般にTOC=0.5%以下の低い値を示したが,中新統では0.5%を超えるものが存在した.始新統〜漸新統瀬戸川層群滝沢層では0.02〜0.41%,下部中新統天徳寺層では0.20-0.89%であった. (4)掛川-御前崎地域の熱構造 Sterane-Hopane2カイネティックパラメーター法(Suzuki,1984)を用いて,掛川-御前崎地域の増温率を検討したところ,陸域側と海域側で違いが見られた.増温率は掛川北部で高く(東北日本油田地域と同程度),基礎試錐「南海トラフ」では低いことがわかった.
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