研究概要 |
本研究では,東アジア縁辺海域の北緯42度〜北緯8度の範囲(十勝沖,鹿島沖,隠岐海嶺,北部東シナ海,北部南シナ海,南部南シナ海)の6地点から採取された海底コアに含まれる陸起源バイオマーカー(生物起源有機分子)の分析を行い,最終融氷期東アジア地域の乾湿南北分布を明らかにし,現在のエルニーニョ南方振動(ENSO)のテレコネクション降水量分布と比較することにより,融氷期温暖化と水サイクル変化に及ぼしたENSOの役割を検討することを目的としている.海底コアは当初4地点の分析を予定していたが,研究分担者および海外共同研究者との議論の結果,十勝沖と北部南シナ海のコアを追加し,6地点とした. 平成16年度は十勝沖と鹿島沖コアのリグニンフェノール分析,陸起源バイオマーカーの抽出・分離,鹿島沖コアの年代モデルの精密化,鹿島沖コアの粒度分析の検討,北部東シナ海コアと北部南シナ海コアの試料分取,イオントラップ型ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS/MS)の購入と調整を行った. 十勝沖と鹿島沖のリグニン組成は過去3万年間同調して変化しており,融氷期において,草本類に多いシナミルフェノールの割合が高いことが示された.このシナミルフェノールの増加はこの時期のグイマツ花粉の増加と対応しており,寒冷かつ乾燥した気候を反映していると解釈された.北部南シナ海海底コアの砕屑物組成からこの時期に中国南部では降水量が増加したことが先行研究(Wang et al.,1999)により示唆されており,東アジア北部と南部とでは融氷期に降水の分布が南に偏っていたことが暗示される.平成17年度では北部南シナ海のコアのリグニンフェノール分析を最重点とし,この降水量の南北逆位相関係を確認することが急務であると考えている.
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