研究概要 |
本研究では,東アジア縁辺海域の北緯42度〜北緯8度の範囲(十勝沖,鹿島沖,隠岐海嶺,北部東シナ海,北部南シナ海,南部南シナ海)の6地点から採取された海底コアに含まれる陸起源バイオマーカー(生物起源有機分子)の分析を行い,最終融氷期東アジア地域の乾湿南北分布を明らかにし,現在のエルニーニョ南方振動(ENSO)のテレコネクション降水量分布と比較することにより,融氷期温暖化と水サイクル変化に及ぼしたENSOの役割を検討することを目的としている. 平成17年度は十勝沖コア,北部東シナ海コア,北部南シナ海コアの陸起源バイオマーカーの抽出,分離,同定,定量を行った.また南部南シナ海コアに関して少数の試料を選び,陸起源バイオマーカーの炭素・水素同位対比の測定を開始した. 十勝沖コアでは高等植物の葉表皮ワックスに由来する長鎖n-アルカンと長鎖脂肪酸の濃度が融氷期で顕著に高く,前年度のリグニン組成の結果とあわせて,融氷期には北海道南東部が乾燥化し,草本類が広く分布していたことが推察された.北部東シナ海でも長鎖n-アルカン濃度が融氷期で顕著に高い傾向がみられた.前年度の鹿島沖の結果も考慮にいれると,北緯42度から北緯32度の範囲では融氷期に乾燥化したと判断された. 他方,降水量低下が予想されていた北緯20度の北部南シナ海コアでは,融氷期に長鎖n-アルカン濃度が減少する傾向は認められなかった.N-アルカンの組成を詳細に検討したところ,融氷期の海水準上昇に伴い高等植物起源n-アルカンから堆積岩起源n-アルカンに変化したことが明らかになった.この起源の変化の度合いが大きかったため,n-アルカン濃度に降水量の影響が表れなかったと判断された. 平成18年度では,南部南シナ海と日本海コアに関して分析を進め,北緯9度から北緯42度までの南北トランセクトの乾湿変動復元を終了させる.
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