研究概要 |
本研究では,東アジア縁辺海域の北緯42度〜北緯8度の範囲(十勝沖,鹿島沖,北部東シナ海,北部南シナ海,南部南シナ海)の5地点から採取された海底コアに含まれる陸起源バイオマーカー(生物起源有機分子)の分析を行い,最終融氷期(17000年前〜9000年前)の東アジア地域の乾湿南北分布を明らかにし,現在のエルニーニョ南方振動(ENSO)のテレコネクション降水量分布と比較することにより,融氷期温暖化と水サイクル変化に及ぼしたENSOの役割を検討することを目指した. リグニン,陸起源バイオマーカー,花粉組成の変化にもとづき,北緯30度以北では最終融氷期に草本類が増加し,乾燥化が進行したことが示された.他方,北緯8度の地点では,長鎖脂肪酸の水素同位体比δDが最終融氷期において約40^0/_<00>の負シフトを示し,降水量が増加したことが示された.この降水量の対照的な変化は,熱帯域で対流活動が活発であったにも関わらず,エルニーニョに似た状態が卓越し北太平洋高気圧が弱化していたため,熱帯太平洋で発生した水蒸気が中緯度には輸送されにくかったためと理解された. さらに,過去2回の融氷期にアリューシャン低気圧が強化されたこと,鹿島沖水温が最終融氷期後半で最低水温を示すこと,北部南シナ海コアの水温変動から最終融氷期に冬モンスーンが強化したと考えられること,鹿島沖コアのアルケノン古水温が完新世で1500年周期を示すことが明らかになった.
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