研究概要 |
平成16年度は,沖縄県本部半島沖合に位置する伊江島北東岸沖にある海底洞窟"大洞窟"とそれに隣接する"小洞窟"から,堆積物試料を採取した.採取には,本研究費の一部を使用して作成した採泥器を用いた.その結果,大洞窟から4本のコア試料,小洞窟から2本のコア試料の採取に成功した.殊に,大洞窟からは長さ148cmの堆積物試料を採取できた(これまでの最長のコア試料は約90cmである).この試料は塊状の石灰質シルトからなり,放射性炭素年代測定によって5,500年間の記録を有していることが分かった.注目すべきは,表層から120cmの深さで堆積物が,浅黄橙色から灰白色へと変化することである.しかも,その境界は極めて明瞭である.放射性炭素年代測定によると,この年代は約5,000年前と推定される.汎世界的海水準変動曲線に基づくと,約5,000年前の海水準は現在と同じレベルにある.一方,大洞窟の入り口は水深20m付近にあり,また洞窟の天井は水深10mである.したがって,大洞窟は約8,000年前に完全に水没したのである.つまり,海水準変動とは関係ない事象によって洞窟内の堆積環境が変化し,それが堆積物の色調に記録されたのである.この環境変化の原因を検討するために,堆積物の粒度分析,貝類・底生有孔虫群集の組成変化,堆積物の磁気特性を検討中である.また,小洞窟の堆積物試料に関しても,堆積物の粒度分析,貝類の組成変化を検討中である. 今年度の調査結果を踏まえて,次年度ではより長いコア試料を採取するために,採泥器の改良を行なっている.
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