研究概要 |
インターネットで検索すると「海底洞窟」は31万件もヒットする.その99%はゲームで,決まって巨大で凶暴なモンスターが登場する.だが,実際の海底洞窟に生息する動物は微小な濾過食者である.二枚貝の場合には,洞窟外では16〜64mmの種が多いのに対して,洞窟内の二枚貝のほとんどは5mm以下である.このような小型化は貧栄養環境への適合と解釈されているのだが、それには洞窟の環境や二枚貝類の歴史的変化に関する情報が不可欠である.生物の形質や生活史特性は全て過去に生じたものだからだ.それにも関わらず,歴史的変化に関する情報は全くない.そこで,本年度では沖縄県伊江島沖の海底洞窟"大洞窟"から採取した表層堆積物と柱状堆積試料について,堆積物の解析と二枚貝類の種組成の検討を行った.その結果,大洞窟の環境は過去5千年間安定だが,数千年スケールで徐々に奥部化(つまり貧栄養化)していることが判明した.この環境変化は貧栄養環境への適合を促進するものである.この知見により多細胞動物の数千年単位の進化を解明するために,大洞窟の二枚貝の化石試料が極めて優れたアーカイブであることが確認された. また,"大洞窟"から採取したコア試料において軽石散在層を見出し,大洞窟軽石と命名した.さらに,その堆積年代が約BC440±40年からAD640±80年の間であること,火山ガラスを主として,斜長石と緑色角閃石と単斜輝石を含むことが分かった.この大洞窟軽石の記載は第四紀研究に印刷中である.
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