研究概要 |
宇宙空間において,衝撃波と有機物は普遍的な存在であり,それらの相互作用(衝撃反応)もまたありふれた反応である.その反応において,有機物は再結合や分解を起こし,組成変化する.そのため,宇宙空間での有機物の組成変化において,衝撃反応は最も重要な反応の1つであったに違いない.本研究では,隕石中の炭素・水素同位体が衝撃波によってどのような挙動をするのかを検証するため,マーチソン隕石に衝撃波を伝え,回収した試料を元素分析計とIR-MSで分析した. 衝撃を被るとマーチソン隕石は脱水素と脱炭素を起こし,その度合いは衝撃圧力が高くなるに従って大きくなる.また,マーチソン隕石のδD値は衝撃を被っていない試料の+10.6‰を出発点として,衝撃を被ることにより+59.1‰まで上昇し,その後,衝撃の程度が増すにつれて-87.6‰まで下がる.衝撃を被らない試料と衝撃を被った試料についての水素存在度と同位体比を用いて,放出された水素の同位体比を検討した.その結果,衝撃による水素の同位体挙動は同位体比の異なる2つの供給源(粘土鉱物:-90‰,有機物:+830‰)からの脱水素のみでは説明できず,脱水素に伴う同位体分別または混合物としての有機物からのHの選択的な脱ガスなどを考慮する必要があることが判った.一方,δ^<13>C値は衝撃を被っていない試料の-4.6‰から,衝撃によって-12.7‰へと単純に減少する.この炭素の同位体挙動は同位体比の異なる2つの供給源(炭酸塩鉱物:+44.5‰,有機物:-17.6‰)からの脱炭素によって説明可能である.また,δD vs. δ^<13>C図中において,衝撃を被ったマーチソン隕石のデータはある曲線付近に分布し,衝撃脱ガスが進むにつれその曲線上を移動する.この曲線は,衝撃によるマーチソン隕石の"同位体比進化曲線"といえるものであり,マーチソン隕石と同様の化学組成を持った隕石は衝撃を経験することによって同様の進化曲線をたどるのかもしれない.
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