研究概要 |
本研究は有機物や隕石に衝撃波を作用させ,物質がどのように変化するかを検証し,その結果を宇宙化学的に応用することを試みたものである。その成果は主に以下に述べる4つである。 1.多環式芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons: PAHs)に衝撃を作用させ,PAHsはどの程の衝撃圧力まで分解せずに生き残れるのかを調べた。その結果を初期地球への炭素質隕石衝突現象に応用:してみると,相当量の有機物が隕石よって初期地球へ供給され得ることが明らかになった。 2.PAHsの衝撃実験によって衝撃圧力と脱水素の関係を調べ,地球形成過程における地球内部および大気中の水素量とその同位体比変化について議論を行った。それによると,実験結果により算出された地球内部の水素量と同位体比は観測によって見積もられているそれらの値と調和的であることが明らかになった。 3.マーチソン隕石の衝撃回収実験を行い,脱ガスに対するδDとδ^<13>Cの変化を調べた。δDは脱水素に伴い,+10.6‰から+59.1‰へと上昇した後,-87.6‰まで減少した。δ~<13>Cは脱炭素に伴って単純に-5.17‰から-17.65‰へと減少した。この脱ガスに対する同位体比の挙動は隕石中の水素・炭素同位体比の進化を示唆しており,衝撃は隕石中の同位体比を支配する重要な過程の1つであることを明らかにした。 4.マーチソン隕石から生成した不溶性有機物(insoluble organic materials: IOM)の衝撃回収実験を行い,水素・炭素同位体比の変化を調べた。それにより,衝撃は効率よくIOMからDと^<13>Cを脱ガスさせることが明らかになった。この重い同位体の選択的な脱ガスは,同位体がIOM中で不均一に分布していることと,それらの同位体が比較的弱くIOMの主要構造と結合していることによるためと考えられる。このDと^<13>Cの選択的脱ガスは熱分解によっても起こるが,衝撃によるものと比べると選択性は弱い。太陽系内での衝撃現象の普遍性を考慮すると,衝撃は同位体,特に有機物中の水素・炭素同位体,の挙動を支配する重要な現象であるといえる。
|