本研究では、光物理化学研究の基本となる構造を有するデンドリマー系の合成・基礎的励起状態挙動とダイナミクスに関する研究を行った。 通常のポリマーや分子量が確定しない集合体の反応ダイナミクスは多様な分子量の物質の平均としてしか追跡できない。デンドリマーは、単一分子であり、しかも世代を増加させることにより分子の大きさに依存した反応ダイナミクスを追跡することが可能であり、このような観点から物理化学的な定量性をもった巨大分子の動的挙動の基礎概念を確立することが本研究の主目的である。 本年度は、「1」光応答性置換基を有するデンドリマーの光物理化学の研究、「2」デンドリマー系の蛍光・燐光・エネルギー移動の研究を行った。そのため、化合物の合成、光反応性の研究、レーザー分光による過渡的中間体の観測などを行った。化合物としては、光可逆分子として蛍光性のスチルベン骨格、無蛍光性のアゾベンゼン骨格を中心部に有する親油性のデンドリマーと周辺に親水性の置換基を有する水溶性デンドリマーを合成した。さらに、物理化学的な基本骨格であるピレン、ペリレン、アントラセン、ベンゾフェノン骨格を有する親油性および水溶性のデンドリマーを合成し、光励起体の特性を検討した。また、光励起状態の高速過程の解明のためピコ秒時間分解蛍光測定装置を導入した。 化合物の合成、光反応性、過渡的中間体の観測を通して、巨大分子の新しい反応ダイナミクス、反応理論の構築を目指した研究に展開し、水溶性デンドリマーの特異な発光挙動、集合・解離の光制御、光による巨大分子の局所的な超高速構造変化と分子全体のゆっくりした構造変化など、巨大分子に特徴的な物理化学の基礎現象を見いだし、報告した。
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