本研究では、生体系の化学反応の解析、相転移ダイナミクスを解析することを目指し多次元振動分光法による水のダイナミクスの解析を行ってきた。 モデルイオンチャネルにおけるイオン透過機構の解析に関して、K^+チャネルのモデルとして負電荷を付加したカーボンナノチューブにおけるイオン透過について解析した。その結果、イオンの透過しやすさは、ナノチューブ上の負電荷の大きさで制御することができ、イオン透過の律速段階は、どのようにチャネルにイオンが入るかであることを明らかにした。 また、PYPのプロトン移動後の構造変化の解析に関しては、光異性化後に起こるプロトン移動により、溶媒として存在する水分子がタンパク質内部に侵入し、プロトン移動によって生成するGlu46アニオンを安定化することが必要であることを明らかにした。 多次元分光に関する研究としては、水および氷の2次元ラマン分光法の解析を行った。t_2軸近傍のシグナルの起源を調べたところ、t2<15fsの時間領域では衡振運動での非線形分極率(分極率の座標に関する2次微分)に、一方30fs<t2<150fsの時間領域では水分子間の並進運動の非調和性に由来していることを明らかにした。氷Ihの2次元ラマンシグナルを調べた結果、分極の異方性に由来し、電場がどの結晶軸に平行かによりシグナルが大きく変化することが明らかになり、相転移ダイナミクスの解析への有用性を示唆することができた。 また、分子動力学法を用いて、氷の融解過程の解析も行ってきた。その結果、6員環構造の中から5員環と7員環構造が生じ、さらに構造の乱れが進み3配位の水分子が生じ、融解が進むことが明らかになった。とくに、3配位の水分子が出現により、低エネルギーのネットワーク組み替えが可能となり、3配位の水分子が集まることにより融解が進行していくことが明らかになった。自由エネルギー面を上っていく融解核の成長段階は、non-Gaussianパラメータの増加に対応する空間的な不均一的な過程であることも明らかにした。
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