今年度は水素結合性の超臨界流体である超臨界メタノール中でのペリレンの振動緩和過程を光カーゲート法による時間分解蛍光測定により評価した。まず、ペリレンの蛍光スペクトル形状の振動余剰エネルギー依存性を調べるために、衝突頻度のすくない気相蒸気において、ナノ秒のレーザーを用いて種々の励起波長で蛍光スペクトルを測定した。その結果、スペクトル形状はアズレンやナフタレンの場合と同様、振動余剰エネルギーが大きいほどスペクトル構造がなくなる傾向を示した。一方、光カーゲート法で、540Kの温度条件で種々の圧力でのメタノール中でのペリレンの時間分解蛍光スペクトルを測定した。光励起後の初期過程におけるスペクトルの形状変化を気相での振動余剰エネルギー依存性と対応させることにより、種々の圧力条件下での振動緩和速度を決定することに成功した。その結果、換算密度0.7から2.1程度の領域において振動緩和速度の密度依存性は非常に小さく、常温常圧での緩和速度と比較して5倍程度遅くなっていることがあきらかとなった。これは、溶媒分子間の水素結合数の変化と類似の傾向である。同様の実験を超臨界シクロヘキサン、超臨界水で試みたが、分解等の問題により現時点では成功していない。 また、超臨界水や超臨界アルコール中での溶媒和に振動スペクトルの観点から検討を加えた。パラニトロアニリンを用いた測定では、N02伸縮振動は溶媒の極性に応答して変化するが、NH2の伸縮振動では溶媒の水素結合数の変化と非常によく相関して変化することが明らかとなった。 以上の結果より、水素結合性の超臨界流体においては、溶質溶媒分子間の水素結合のかかわる相互作用は溶媒分子間の水素結合数の変化に強くカップルしていることがあきらかとなった。
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