金13クラスターにおいては、表面が負に帯電することを見いだしていたが、今回、金55クラスターを計算することにより、金55クラスターの表面電荷はさらに大きくなり、クラスターサイズの増加とともに単調に表面電荷が減少するという予測を覆す結果が得られ、貴金属クラスターにおける分極効果のサイズ依存性に新しい知見を与えることが出来た。このほかに、イリジウム13クラスターに対しても同様の検討を行ったが、金ほどの大きな分極効果は得られず、同種の貴金属であるにもかかわらずd電子の占有数によって大きく物性が変化することが明らかになった。 金13クラスターに関しては、icosahedronとcuboocatahedronのクラスター形状によって、CO分子の吸着には大きな差異はみられないが、酸素分子の吸着に関しては前者が、3kcal/mol程度の弱い相互作用を持つのに対して、後者ではほとんど相互作用を持たないことが明らかになった。Pdクラスターの表面電荷は殆ど0に近い結果が得られたのに対して、Ptクラスターでは-0.2程度の値が得られた。これらの結果は、金クラスターで得られた表面電荷に比べると非常に小さいものであることが明らかになった。それに対して、Pd/Ptコアシェル構造を有する13クラスターでは、表面にどちらの元素種が来るかで大きな差異が生じた。Pd12個が表面にある場合では電荷の分極がPd13クラスターよりも小さくなり、逆にPd12個が表面に来る場合には、Pt13クラスターよりも表面電荷が大きくなるという非常に興味深い結果が現れた。これは主にPtとPdのdバンドのエネルギー準位の位置の違いに起因する結果であり、これを元に電荷の分極が制御されることを明確に理解することが出来た。 金クラスターと水分子の相互作用について、Au10クラスターを元に検討したところ、金クラスターの電子状態が負に帯電、中性、正に帯電したいずれの状態に対しても比較的強く表面に吸着することが明らかになった。もっとも強く水分子を吸着するのは正に帯電した場合である。このような結果が金クラスターのCO酸化活性の水分添加効果に寄与していると考えられる。
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