研究概要 |
酸素分子O2に対応する二原子硫黄S2、オゾンO3に対応する三原子硫黄S3、酸素分子の酸素一個を硫黄で置換したSO、二酸化硫黄SO2の酸素一個を硫黄で置換したS20などの反応活性な硫黄の小分子について研究した。その結果、これらの活性分子を溶液中、穏和な条件下に発生させる手法の開発に成功した。また、これらの分子の化学的性質や反応性を明らかにした。以下に主たる成果を箇条書きにする。 1)可逆的なretro-Diels-Alder反応を利用して、溶液中室温においてS20を発生させる手法を開発した。本方法により発生したS20は、適切な反応相手が存在しない場合には、自己二量化を経由して、S3とSO2に不均化することを明らかにした。 2)こうして生成したS3は歪んだアルケンに対して1,3-双極子付加を行うこと明らかにした。また、S20のジエンとの[2+4]付加反応や金属錯体形成反応についての知見を得た。 3)S20の反応性、DFT計算等を駆使することにより、その基底状態がS=S^+-0^-と表記できることを示した。 4)Diels-Alder反応付加体からの押出し反応を利用して、低温(室温以下)でSOを発生させる手法を開発した。 5)本方法に発生させたSOの反応性を検討し、一重項のSOが反応に関与しているとの結論を得た。すなわち、本手法によるSOはアルケンやアルキン類に[1+2]付加を行う。これは過去に報告例のない新規な反応である。とりわけ、後者の反応は、SOが一重項であることを示すとともに、従来、不安定で合成困難とされてきたチイレン1-オキシドの最良の合成法となるものである。また、SOのジエン(ポリエン)に対する[1+4]付加の立体化学を明らかにした。 6)S2が発生していると類推される2,3の新反応を開発した。
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