研究概要 |
アミノ酸や糖をターゲットとした新規ホスト分子を考える上で、分子認識の解析手段としてキラリティーを利用した新手法を開拓することは興味深い。鍵となる新物質は我々がここ数年の間に開拓してきた2,2'-ビピロールを構造要素とする環拡大ポルフィリンである。本年度は8個のピロールからなる大環状化合物であるオクタフィリンの不斉ループ構造の安定性について検討を行った。この不斉ループ構造の反転メカニズムの解明はアミノ酸や糖との相互作用を研究する上で極めて重要である。ピロールのβ位に種々のアルキル置換基を有するオクタフィリンを合成し、そのX線結晶構造解析を行ったところ、8の字ループの交差部位においてアルキル置換基が対面するピロール環との問でCH-π相互作用を受けている事が明らかになった。一方、溶液中でのオクタフィリンの不斉ループ構造の反転は温度可変NMRを用いた実験によって明らかにすることができた。非常に興味深いことにメチル置換基やイソブチル置換基を有するオクタフィリンの場合には不斉ループ構造の反転が40度付近で遅くなったが、ヱチル置換基の場合には-60度でも反転がNMRタイムスケールに比べて速く起こっていることを見いだした。アルキル置換基の微妙な構造の違いが分子全体のダイナミクスに大きな影響を与えることはオクタフィリンをベースとするホスト分子を設計する上で重要な指針となる。不斉反転は分子捩れが巻き戻り反対方向に捩れ直すメカニズムではなく、構造要素であるビピロールのシスートランス異性化によるメカニズムで起こることを明らかにし、この不斉反転は金属錯体化により完全に停止することを示した。更に、構造要素である2,2'-ビピロールの伸長誘導体を新規に合成し、拡張オクタフィリンの合成を行った。これらの分子構造の特微と分子認識能について今後明らかにする予定である。
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