研究概要 |
アミノ酸や糖をターゲットとした新規ホスト分子を考える上で、分子認識の解析手段としてキラリティーを利用した新手法を開拓することは興味深い。鍵となる新物質は2,2'-ビピロールを構成要素とする環拡大ポルフィリンである。4つのビピロールから成るオクタフィリン、1,4-ビス(2-ピロリル)ベンゼンを構成要素とする拡張オクタフィリン、および、2,2'-ビピロールとジメチルジピリルメタンからなるヘキサフィリンの新規合成に成功し、そのC_2対称構造を明らかにした。次に、オクタフィリンの不斉ループ構造の安定性について検討を行った。不斉反転は分子振れが巻き戻り反対方向に捩れ直すメカニズムではなく、構造要素であるビピロールのシスートランス異性化によるメカニズムで起こることを明らかにした。更に、ピロールのβ位のアルキル置換基の微妙な構造の違いが不斉反転のダイナミクスに大きな影響を与えることを明らかにした事はオクタフィリンをベースとするホスト分子を設計する上で重要な指針となった。次に、微量のアミノ酸誘導体を含む光学活性カルボン酸をオクタフィリンに加えると、可視吸収スペクトルが大きく変化すると同時に、その可視吸収バンドの位置に誘起CDシグナルを与えることを見いだした。オクタフィリンがプロトン化され、共役塩基であるカルボキシレート部の不斉がオクタフィリンのループ構造に転写されたことを示している。種々のカルボン酸を用いてその構造と誘起CDシグナルの形状との相関についてデータの蓄積を行った。例えば、マンデル酸の鏡像体を用いることにより、誘起CDシグナルは反転することも確認した。特に、プロトン化を受けるピロール窒素部分から遠く離れたメソ位フェニル基上の置換基がセンシング活性に大きな効果を示すことを見いだした。本研究は、光学活性カルボン酸の絶対配置の決定に有用な手段を提供できることを明らかにした。
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