本研究では二つの仕事を展開した。(1)酸触媒能を持つイミダゾリウム型イオン液体(IL)をテトラアリールポルフィリン1ポット合成に初めて適用したところ、イオン液体中の水分率と粘性に反応収率が依存する事を見いだした。また、ジクロロメタンと相分離している酸触媒イオン液体の界面を利用した二相系反応をピロールとベンズアルデヒドとの縮合反応に適用した。この界面反応は、高濃度の基質条件下での環化(オリゴマー化に比較して)に優れている事を認めた。また、10回の繰り返し使用が可能である事も確認した。イオン液体と機能性のポルフィリンを掛け合わせた仕事は従来にない初めての試みであった。この内容を二つの論文にまとめた。(2)イオン液体として広く使用されているイミダゾリウムカチオンは、二つの窒素に挟み込まれた2位の水素C2-Hの水素結合供与性が特徴である。イミダゾリウム陽イオンの対アニオンとして異なる分子サイズのスルホネートを本研究では意識的に組み合わせた。イオン液体成分のカチオンとアニオンとの相互作用の程度を液相クラスター質量分析ES-MSにより評価したところ、嵩高いカンファースルホン酸塩では塩クラスターがほとんど認められないのに対して、小さなトリフルオロメタンスルホネート塩では夥しいカチオンとアニオンが組み合わさったクラスターを与えた。イミダゾリウムカチオンの対アニオン選択が、対イオン型塩か自由イオン型塩かを決定する一つの因子である事を確認した。この二つの対イオン型塩か自由イオン型塩の媒体評価を行うために、エチルアクリレートとシクロペンタジエンとのDiels-Alder反応におけるendo/exo選択性を評価方法として活用した。その結果、自由イオン型、即ち、裸のC2-Hを与えやすい組み合わせでは、優れたendo選択性を与える事を確認した。また、カルボニル基質と裸のイミダゾリウム環との間で水素結合を示している事を液相クラスター質量分析から再確認した。この事から、イオン液体における自由イオン型とイオン対型を意識する重要性を結論した。
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