フェノール性水酸基とジアゾエステルをキラル架橋で繋いだ基質を合成した。フェノール部は2種、ジアゾエステル部は3種、架橋部は4種に関してそれぞれ光学活性体として合成した。これらの基質を用いて、各種ロジウム触媒(5種)、種々の溶媒中での光照射、溶液中および気相での熱分解反応を検討し、4種類の分子内付加反応を見いだした。ジアゾエステル部にアセチル基を持つ基質にRh_2(OCOC_3F_7)4を加えるとO-H挿入反応が定量的に進行した。生成物のジアステレオマー過剰率は72-85%であり、熱力学的な安定性に起因すると思われる。同じ基質に光照射すると溶媒との分子間カルベン付加とともにケテンの転位が起こり、分子内エステルを形成した。2種の架橋で検討した限りでは異性体は検出されなかった。一方、ジアゾエステル部がフェニル置換した基質に光照射するとカルベンの分子内O-H挿入反応が起こった。反応選択性は条件に依存し、現在検討中である。ジアゾエステル部が無置換の基質を気相熱分解した場合、ケテンへの転位後、分子内エステル化、さらに水素が転位した生成物が得られた。現在構造の確定と転位機構の検討を行っている。この系の反応とは別に、ビニルヨウドニウム塩の加溶媒分解を行った。分子内に水酸基を持つ種々の基質を合成し、分子内反応の速度と立体選択性を検討した。現在、熱力学データの収集中である。また、従来から行っていたカルベノイドと芳香族化合物との選択性を再解析した結果、触媒により反応機構が変化することが分かった。立体選択性が変化せず、位置選択性のみが触媒に依存することから2つの反応機構が存在すると推定した。分子内反応速度への置換基効果も2つの機構を支持している。1つはシクロプロパン化に類似した機構と思われるが、他方は極性の強い遷移状態を経る未知の機構を通ると推定される。
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