研究課題
本年度はキラル架橋反応の速度と立体制御の関係に関する重要な知見がいくつか得られた。ジアゾエステルとロジウム触媒で得られるカルベノイドをフェノール類と反応すると、カルベノイドの種類にかかわらずOH挿入反応のみが起こる。これは芳香族π結合への付加に比べ、挿入反応がはるかに起こりやすいためと解釈できる。キラル架橋反応にこの反応を組み込むと、化学種選択性の逆転を引き起こすことが可能であり、架橋部の立体化学とカルベノイドの反応性により付加反応により生成したシクロヘプタトリエノールが立体選択的に得られた。一方、リガンドのみが異なる反応性の弱いカルベノイドを用いると挿入反応のみが起こる。これは分子内の反応部位の接近に必要なコンフォメーション変化よりも反応が速くなったためと解釈できる。特筆すべきは、このような高速反応においても付加の立体選択性は完全に制御されている点である。ジアゾエステルと芳香族との反応でも同様に、芳香族基部分の回転速度と付加が競争する例が見いだされた。すなわち、付加の速いカルベノイドでは位置選択性が失われるのに対し、遅いカルベノイドは高い位置選択性を示した。この場合にも高い立体選択性は変わらず、高速反応の立体制御に対するキラル架橋の高い能力を示した(投稿中)。一方、キラル架橋を用いる分子内ラジカル付加反応の立体選択性は低く、キラル架橋反応の中では例外であり、そ理由は不明であった。今回、架橋部の立体化学と選択性の関係から、分子内付加がラジカル炭素の立体反転よりも速いことに起因することを証明した。これは高速反応の立体制御ができない例として今後の機構研究に利用できると考えられる。また、ラジカルの安定性制御により高い立体選択性を誘起できると考えている。
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