室温下、等モル量の2-メチルー3-ブチンー2-オールとPh_2P(O)Hの混合物をPh_2P(O)OHの共存下THF中で反応を行ったところ、一気に脱水生成物のリン(P(O))置換共役ブタジエンを高収率で与えた。同反応には、Ph_2P(O)OHの添加が必須である。反応機構を詳細に検討したところ、先ずニッケルPh_2P(O)OHの作用により、プロパルギルアルコールがエンイン類に変換され、これがPh_2P(O)OHと反応して最終生成物のリン(P(O))置換共役ブタジエン類を与えたことを明らかにした。同時に、光学活性なリン化合物の新規高効率合成の検討を行った。まず、H-P(O)結合のアルケン類への触媒的不斉付加反応を検討した。5員環ジオキサホスホラン2-オキシドとノルボルネンとの反応を酢酸パラジウム/光学活性ホスフィン触媒系を用いて行ったところ、BINAPなどでは低eeしか得られなかったが、光学活性フェロセン系ホスフィン配位子、特にJosiphos系ホスフィン配位子を用いた時に、高いee選択性でヒドロホスホリル化が進行した。反応条件の最適化を行い、溶媒としてジオキサンを用いた時に、81.5%ee選択性で付加物を与えた。ノルボルネンの代わりに、スチレンへの不斉ヒドロホスホリル化を同様に行ったところ、最高不斉選択性72.5%eeで進行した。このようなC-キラリティーリン類の合成を行うと同時に、P-キラリティーを有するリン類の合成についても検討した。すなわち、まず光学的に純粋な(Rp)-メンチルフェニルポスフィナートを容易に大スケールで合成する手法を開発した。これのアルケン類へのラジカル的付加を検討したところ、付加は立体特異的に(リン上の立体が保持)進行し、対応する光学活性ホスフィナート類を高い収率で与えた。すなわち、等モル量の1-オクテンのベンゼン溶液にAIBNを加え、80℃で混合物を加熱した。付加の効率は基質の濃度に大きく影響される。濃度が低い場合は、付加物収率が低く、反応は完結しない。これに対し、高濃度下では、付加反応は効率よく進行する。いずれの場合も立体特異的に進行し、付加物(RP)を選択的に与えた。興味深いことに、同条件下では(Rp)-メンチルフェニルポスフィナートのラセミ化は殆ど生起しない。官能基を有する末端アルケン類を用いた場合も、同様に反応が立体特異的に進行した。また、弱い塩基触媒を用いることにより、上記P-H化合物の電子吸引基を有するアルケン類への付加も立体保持で進行した。この反応を用いて、二配座光学活性リン類誘導体を容易に合成できた。また、光学活性な(Rp)-メントキシフェニルポスフィナートの大量合成に成功し、本手法を用いれば、光学純度>99%eeのホスフィナート化合物が容易に得られた。更に、その立体特異的変換法に成功し、高い収率で95%以上の光学純度eeで光学活性な二置換ホスフィンオキシド類を与えることに成功した。これまで、光学活性なホスフィナート類が塩基存在下で素早くエピマー化するといわれ、立体特異的な置換が不可能と信じられてきた。従って、上記実験結果が、これまでのこのようなリン化学での誤認を正したことにも大きな意義がある。この発見は一般性を有し、これにより、種々の光学活性二置換ホスフィンオキシド類を容易に発生させることができた。更に、光学活性二置換ホスフィンオキシド類の発生を、アルキルハライド類と組み合わせたところ、ワンポットで高選択的に光学活性なホスフィンオキシド類を合成できた。したがって、P-キラリティーリン化合物の実用的な一般的合成法の確立に成功した。
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