研究概要 |
本年度は,ジチオナイト錯体の結晶相フォトクロミズムが,光感応基であるジチオナイト配位子をとりまく空間によって制御されているということを明らかにした。 ジチオナイト配位子の反応空間が,周りの他の錯体分子のシクロペンタジェニル環の環状配位子によって形成されていることを考慮して,Cp^*(η^5-C_5Me_5)のメチル基の一つを他の置換基に替えることによって,反応空間の形状や性質を変化させる方法をとった。実際には,一つのメチル基をエチル基に変換したCp^<Et>配位子,フェニル基に変換したCp^<Ph>配位子を用いて対応するジチオナイト錯体を合成した。X線結晶構造解析より,この2つのジチオナイト錯体の構造を決定し,その配位子周りの空間の形状や性質の変化を確認した。そしてこの変化がフォトクロミック反応の相対速度に差異を生じさせることを明らかにした。 結晶相フォトクロミズムを示す化合物は極めて限られており,錯体分子ではほとんど知られていない。本研究で得られた成果は,単にフォトクロミック反応を示す化合物の例を増したということばかりではなく,錯体の示す特異な性質を明らかにすることにより,結晶相フォトクロミズムの研究分野に新たな展開をもたらすものと期待される。
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