研究概要 |
[NiFe]ヒドロゲナーゼの活性部位構造は、システイン由来の硫黄原子2つがFe-Ni間を架橋した二核構造であり、ニッケルにはさらに2つのシステイン由来の硫黄原子が、鉄には2つのシアノ基と1つのカルボニルとされる二原子配位子が末端配位している。平成17年度はこれらの構造的特徴を備えたモデル錯体の構築を目指し、独自の合成戦略に基づいてチオラート架橋Fe-Ni複核錯体を合成した。鉄(II)シアノ/カルボニル錯体(PPh_4)[Fe(CO)_3(CN)_2Br]にジチオラートK_2(pdt)(pdt=1,3-propanedithiolate)およびK_2(ndt)(ndt=exo-2,3-norbomanedithiolate)を作用させたところ、それぞれ鉄上のBr配位子とカルボニル基がチオラートに置換されたジチオラート錯体[Fe(CO)_2(CN)_2(pdt)]^<2->(a)および[Fe(CO)_2(CN)_2(ndt)]^<2->(b)が得られた。錯体a、bは窒素雰囲気下、アセトン/アセトニトリル混合溶液中でニッケル(II)錯体NiBr(PPh_3)(dtc^<Et>)(dtc^<Et>=diethyldithiocarbamate)と反応し、それぞれ対応するFe-Ni二核錯体(PPh_4)[(CO)_2(CN)_2Fe(μ-pdt)Ni(dtc^<Et>)]、(PPh_4)[(CO)_2(CN)_2Fe(μ-ndt)Ni(dtc^<Et>)]を与えた。単離した二核錯体のX線結晶構造解析を行った結果、これらの錯体は天然の活性部位構造を非常によく模倣した構造をとることが明らかになった。特に重要な点は、チオラートがFe-Ni間を架橋している点、ニッケルの配位座が硫黄原子に囲まれている点、そして鉄にシアノ基およびカルボニル基が末端配位している点であり、活性部位の構造的特徴の多くを再現している。
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