研究概要 |
1.銀(Ag(I))錯体は抗菌活性の観点から注目されている。抗菌活性は錯体からのゆっくりしたAg^+イオンの解離に基づくとされている。実用面においては、これらの錯体の安定性ならびに水溶性が重要である。このような観点から、糖質は重要な役割を担うことが期待される。しかしながら、糖質によるAg^+イオンの還元が伴うことが多く、Ag^+イオンとの糖質の化学は、かなりの制限を受けている。一方、エチレン架橋の鎖状三脚型NS3一型配位子が安定なAg(I)錯体を形成されることが知られている。本研究では、三脚型S-グリコシド配位子の合成ならびにAg(I)錯体についての合成、キャラクタリゼーションおよび抗菌活1生にっいて検討した。 2.三種の糖(D-グルコース、D-ガラクトース、D-マンノース)の各チオールおよびチオアセタールとトリス(2-プロモエチル)アミンとの反応により、珍しい糖質が連結した三脚型NS3配位子を合成した。これらの配位子を用いて安定なAg(I)錯体を合成した。元素分析、NMR, X-ray, MS, EXAFSにより、錯体のキャラクタリゼーションを行った。錯体の抗菌活性、バクテリアの増殖阻害および毒性試験を行った。 3.本研究の結果、新規糖連結NS_3-型配位子の実用的な合成法を確立した。これらの配位子はC_3対称構造の安定な単核Ag(I)を形成することが明らかとなった。錯体の水溶性は糖の種類に依存することが判明した。抗菌活性試験の結果、これらの錯体は、糖の種類に関係なく、バクテリア、イースト菌および真菌に対し良好な抗菌活性を示した。すなわち通常のAg(I)塩に比べて、Ag(I)錯体への糖質の導入により抗菌活性を向上させ、毒性の軽減が見られた。今後の展開が期待される。
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