研究概要 |
生体内におけるタンパク質の修飾,機能発現,代謝といったプロセスではタンパク質の分子間相互作用に関するダイナミクスが重要になる.本研究の目的はタンパク質などの生体分子のダイナミクスを解析するための長寿命近赤外発光プローブを創製し,その光物理化学特性や安定性を評価し,その設計指針を獲得するところにある.長寿命近赤外発光プローブは,従来の蛍光プローブの時間領域をマイクロ秒領域に拡大し,生体透過性に優れた波長領域で発光する,という二つの利点を有する.当研究では,大環状配位子チアカリックスアレーン(TCA)とAg(I)イオン,発光中心であるNd(III),Yb(III),Er(III)などのランタニドLn(III)イオンから成る三元錯体の自律的形成を利用し,発光プローブを設計する.当年度は発光中心として上記のLn(III)ではなく可視領域に発光を与えるTb(III)を対象とし,TCAスルホン酸-Tb(III)-Ag(I)三元系をベースにプローブ設計を検討した.まず三元錯体が6-12の広範囲で自律的に生成することを明らかにした.ES-MS測定により錯体の組成はpH10付近でTCA:Tb:Ag=2:1:4となることがわかった.これはTb(III)イオンを2個のTCASでサンドイッチし,それが4個のAg(I)架橋で安定化されている構造を示唆する.この時の発光寿命は3.3msとTb(III)の自然寿命に匹敵する長さであった.配位水分子数を計測したところ0.13となり,本錯体中でTb(III)はTCASの8個の酸素ドナーの供与を受け,サンドイッチ構造を有することが裏付けられた.以上,TCAスルホン酸-Tb(III)-Ag(I)三元錯体の自律的形成条件および構造を明らかにした.なお,本条件をTCAスルホン酸-Nd(III)-Ag(I)系に適用したところ,Nd(III)由来の近赤外発光を与えたことを付記しておく.
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