研究概要 |
0価NiやPdは、1,3-ブタジエンと穏和な条件下で容易に反応し、ビスアリル錯体を与える。我々は、この錯体が有機典型金属試剤と反応し、アリル配位子のη^3からη^1への変換を経て対応するビスアリル型アート錯体を生成すること及び、これがアルキルハライドやクロロシランに対して高い反応性を有することを見出し、ハロゲン化アルキルと有機金属試薬とのカップリング反応が効率よく進行することを見出した。また、ハロゲン化アルキルの代わりにクロロシランを用いることにより、ブタジエンの2量化を伴うアリルシランの新しい合成反応を開発することに成功した。また、これらの反応機構の解明を目指し、理論化学計算により予想される反応経路におけるビスアリル型アート錯体のアニオン部分ならびに最後の還元的脱離の過程における遷移状態の構造とエネルギーをハイブリッドDFT法による理論計算により求め、その経路の妥当性を検討した。すなわち、σアリル基の配置により幾つかの安定構造が見つかったが、1)これらのエネルギーの差は小さいこと、2)bis(σ-allyl)型構造は三重項状態が安定となったが、いずれもエネルギーがかなり高いことが明らかとなった。また、還元脱離の遷移状態の構造を求めたところ、四角錐型5配位の4価の錯体を経ることが明らかとなった。アルキル基同士の還元脱離のエネルギー障壁は5.5kcal/molと低く、この過程が極めて進行しやすい結果及び、σ-アリル基とアルキル基との還元脱離の活性化エネルギーは11.2kcal/molとこれより大きく、実際の反応においてこの過程に由来する生成物が得られていない事実と矛盾しない結果が得られた。
|