研究概要 |
五塩化タンタルや三塩化クロムを亜鉛で還元すると低原子価のタンタル(III)やクロム(II)が得られる。このような低原子価前周期遷移金属を、有機ハロゲン化合物や電子吸引基の置換した不飽和結合に作用させると、それら有機化合物への電子移動-すなわち還元が進行する。この電子移動挙動をいくつかの有機化合物の還元とその反応性を指標にして観察した。 第1の指標は1,1-ジハロアルカンである。1,1-ジハロアルカンに低原子価クロムを作用させると、ハロゲン2つが還元され、gem-ジクロム反応剤が生成する。この際、とくに他の金属の添加は必要ない。この点は、亜鉛を用いる1,1-ジヨードメタンの還元反応と大きく異なる。後者では、微量の鉛の添加が必要である。gem-ジクロム反応剤を、触媒量のクロムと、亜鉛金属あるいはマンガン金属、Me_3SiClを用いて調製し、アルデヒドからのE-アルケニルシラン、E-アルケニルホウ酸エステルを合成する方法を確立した。 第2の指標はアルキンである。低原子価タンタルとトリメチルシリルアセチレンとの反応により得られる、タンタル中心にアルキンがη^2で配位したタンタル錯体を単離し、単結晶X線構造解析により構造決定するとともに、配位子の反応性を調べた。その結果、η^2で配位したシリルアセチレンは、内部アルキンと分子間で配位子交換反応を起こすことがわかった。一方、末端アルキンをこのシリルアセチレン錯体に作用させると、発熱とともに末端アルキンの環化三量化反応が触媒的に進行し、トリアルキルベンゼンが定量的に生成した。
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