研究概要 |
金属あるいは金属錯体を有機合成反応に用いる場合には、有機化合物にそれらからどのように電子を渡すかという最初の段階が、反応進行の鍵を握ることが多い。本研究では微量の異種金属の、金属から有機化合物への電子移動に与える影響を基礎と応用の観点から調べた。研究期間の前半は、活性化メカニズムを明らかにするとともに、クロム(II)、タンタル(III)、アルミニウム(O)などの低原子価金属を用いる有機合成反応の開発を行なった。その研究の過程で、レニウム錯体触媒を用いるC-H結合活性化反応を見いだした。不活性な炭素-水素結合をうまく切断し、その切り口から炭素-炭素結合を形成していく反応は、原子効率の高い合成反応として重要である。そこで、後半はレニウム錯体を用いるC-H結合活性化を基盤とする研究に焦点をあてた。 主な研究成果をあげる。1.触媒量のクロム、亜鉛(あるいはマンガン)金属、Me_3SiCIを1,1-ジハロアルカンに作用させてgem-ジクロム反応剤を調製し、アルデヒドからのE-アルケニルシラン、E-アルケニルホウ酸エステルを合成する方法を確立した。2.η^2-シリルアセチレン-タンタル錯体の配位子交換反応について研究するとともに、末端アルキンの触媒的環化三量化反応を開発した。3.クロム(II)と微量のニッケルの系に水を添加すると、アルキンとアルデヒドのカップリング反応が進行することを見いだした。4.レニウム錯体触媒を用いる、C-H結合の活性化を経由する新たな合成反応を開発した。(1)レニウム錯体触媒[ReBr(CO)_3(thf)]_2を用いる芳香族アルジミンとアセチレンとの反応によるィンデン誘導体の合成;(2)レニウム錯体触媒を用いる芳香族ケチミンとアルデヒドとの反応によるイソベンゾフラン誘導体の合成;(3)触媒量のアニリンとレニウム錯体を用いる芳香族ケトンとα,β-不飽和カルボニル化合物との形式的[3+2]型付加環化反応によるインデン誘導体の高原子効率合成。
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