研究課題
基盤研究(B)
高病原性鳥インフルエンザ等に代表される新種ウィルスによる疾病の早期診断のための迅速・簡便で高感度なセンシングシステムの構築が全世界的に重要視されている。ホスト-ゲスト化学や超分子化学の手法を用いて特定の物質を高感度に認識する受容体は種々報告されているが、これらは各々の認識対象物質に対しその都度、受容体の分子設計・合成を行わなければならず、また、その検出には大掛かりな分析システムを必要とした。本研究では、生体の持つ高度な物質認識・情報変換機能を、単純な化合物よりなるナノ集合体の構造を制御することで発現できうるとの考えの下、末端に糖鎖等、種々の官能基を導入したペプチド分子が、脂質膜中で認識対象物質との相補的相互作用により再配列し、同物質に対し特異的な認識能を有する受容体が構築されることを見出した。この受容体は、認識対象物質とペプチド末端官能基との相補的な相互作用により形成されるナノ構造体を、物質センシング部位として用いるために、ペプチド末端の官能基の種類を増やすことにより、多種多様な認識対象物質、或いはその構造が確定されていない未知物質に対し特異的なセンサーを簡便に構築できる。更に、認識対象物質との相補的相互作用により構築される、ペプチドナノ構造体より成るセンサーを高度化し、信号変換機能の付与のために、ペプチドナノ構造中にイオン透過機能(チャネル形成能)を導入すると共に、基板表面に形成させたイオン伝導性の超薄膜上に同ペプチドナノ集合体を固定化することで、物質認識機能と信号変換機能を併せ持つ新規センシングシステムの構築を行った。これは、基板上に固定化された認識対象物質との相補的相互作用により形成されたチャネル構造を有するペプチドナノ構造体への認識対象物質の再結合が、同チャネル孔を閉鎖することでイオン透過性が変化し、その認識情報が膜電位変化等の電気化学的信号に変換されることを利用するものである。将来的には、pHメータのようなパーソナルユーズの化学物質センサーへの展開が期待される。
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