研究概要 |
1.我々は最近、分子機械の1つである「光動力キラル分子モーター」を世界で初めて開発した。本研究では、その化学と回転機構の解明、およびこの分子モーターを用いた分子レベルでの仕事とマクロレベルでの応用をめざした。本モーターでは光異性化反応と熱異性化反応がキーステップであるが、光反応は本質的に高速反応である。しかし、熱反応は現在のところ遅く、このため、最初にモーター分子構造の改良と反応の高速化をめざした。 2.光動力キラル分子モーターの分子設計と合成:分子モーターの回転の高速化を目標に新規5員環型モーターの合成を行った。前駆体のキラルケトンはキラルフタル酸法を用いて合成し,絶対配置はX線法及びNMR法で決定した。ケトンのMcMurryカップリングにおける五員環型分子モーターの合成収率は26%であり、六員環型の収率と比べると約6倍に向上した。 3.モーター分子のキラル合成と絶対構造の決定:分子モーターの回転方向の絶対的制御(右回転、左回転)には分子キラリティーが有効であり、キラル合成と絶対構造の決定を行った。液体クロマトグラフ、高分解能核磁気共鳴スペクトル、X線結晶構造解析装置を用いて、各モーター回転異性体の単離、検出、絶対立体構造の決定に成功した。 4.モーター分子の光化学と熱異性化反応の動力学:オレフィン化合物のシス-トランス光異性化反応は本質的に高速反応である。光化学反応の最適条件の検討のため、単色光照射装置を使用し、分析機器を駆使して光反応と熱反応の機構と動力学を解明した。これにより、本研究の目的の一つである、新規5員環型分子モーターの回転機構の解明と高速回転化に成功した。
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