申請者は曲面状の共役系をもつホスト分子、カーボンナノリング(CNR)類を合成し、フラーレン類と非常に安定な錯体を形成することを見出した。本研究ではその成果をさらに発展させ、曲面状の共役系を基に多様な超分子システムを構築することを目的とする。 McMurry反応によって前駆体である環状フェニレンビニレンを合成し、臭素化-脱臭化水素化によって複数の二重結合を一挙にアセチレン結合へと変換する方法で、CNRの一つである円筒状の構造をもつ[n]環状フェニレンアセチレン([n]CPPA)類を合成してきた。本年度は、著者らの研究の中でもっとも空孔サイズの小さい[5]CPPA(10.8Å)と、もっとも大きい[10]CPPA(20.4Å)を合成した。[5]CPPAは17.4Åの空孔サイズをもつ[8]CPPAとかなり安定な錯体を形成することがわかった。その錯形成の熱力学パラメターはエントロピー項の効果が大きいことを示し、歪んだπ系において分極構造の寄与が大きいことがわかった。一方、[10]CPPAは比較的安定であり、また、その空孔サイズは、物性的に特に興味深いカーボンナノチューブである(10.10)CNTを取り込めるだけの大きさがあることから、ホストとしての性質を今後検討してゆく計画である。 また、著者らはキラルなビナフトールやビフェニールを構成成分としてもつ環状アリールアセチレン類も合成した。これらの化合物はキラルな空孔をもち、その超分子化学的な性質に興味がもたれる。分子会合をする誘導体も見出しておりさらに詳細な検討を行う計画である。
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