著者は曲面状の共役系をもつホスト分子、カーボンナノリング(CNR)類を合成し、フラーレン類と非常に安定な錯体を形成することを見出した。本研究ではその成果をさらに発展させ、曲面状の共役系を基に多様な超分子システムを構築することを目的とした。本年度は、カーボンナノチューブとの錯形成、可溶化をめざした、より大きな環をもつCNRの構築を検討した。これまでのスチルベン誘導体を原料にMcMurry反応を用いる方法では、多様な置換基や環構造を構築することが困難であったため、種々の方法を検討した。 1、屋根型に折れ曲がったジヒドロベンゾフロペンゾフラン骨格に注目し、これを鍵中間体として環状化合物の構築する方法を検討した。本年度は鍵中間体の効率的な合成法を確立した。 2、Grubbs試薬を用いたオレフィンメタセシス反応は有用な合成反応であることが知られていたが、これまで、シクロファンなどの芳香環を含む大環状化合物の合成にはほとんど応用されていなかった。これはスチレン誘導体に対してGrubbs試薬の活性が低いためと考えられる。著者はGrubbs試薬が6-ビニルビナフトール誘導体に対して活性が高く、容易にオレフィンメタセシス反応を触媒することを見出した。この反応をもとにキラルなビナフトールやビフェニールを構成成分としてもつ大環状アリールアセチレン類の合成を検討した。これらの化合物はキラルな空孔をもち、その超分子化学的な性質に興味がもたれる。分子会合をする誘導体も見出しており、次年度はさらに詳細な検討を行う計画である。
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