研究概要 |
著者は曲面状の共役系をもつホスト分子、カーポンナノリング(CNR)類を合成し、フラーレン類と非常に安定な錯体を形成することを見出した。本研究課題の期間内において、その成果をさらに発展させ、曲面状の共役系を基に多様な超分子システムを構築することを目的とした。 1 互いに相補性をもつCNR類の錯形成を検討し、より歪のかかった系同士の錯体のほうが安定であり、しかもエントロピー効果が大きく、よりフラーレン錯体との類似性が高いことを見出した。この結果は、曲面状のπ系間の相互作用に静電的な相互作用の存在を示す重要な成果と考えられる。 2 カーボンナノチューブ(CNT)の可溶化をめざし、より大きな環構造をもつCNRの構築を検討した。1.75nmの空孔と長鎖のアルキル基を持つ系が単層CNTを可溶化することを見出した。 3 C70の誘導体とCNR類の錯体の動的挙動を研究することで、フラーレン骨格を軸化合物とする新たな擬ロタキサンが生成していることを見出した。 4 縮合多環状芳香族化合物を円筒状に折り曲げたカーボンナノチューブの部分構造をもつ、アームチェアー型(7,7)および(8,8)カーポンナノベルトの合成を検討した。ヘキサフェニルベンゼンのルイス酸触媒によるヘキサベンゾコロネン合成を最終ステップにすることを念頭に、重要な合成中間体であるシクロファンの合成に至った。 5 Grubbs試薬が6,6'-ビニルビナフトール誘導体に対して活性が高く、容易にオレフィンメタセシス反応を触媒することを見出した。検討の結果、ビナフトール酸素上の置換基によって生成する環状オリゴマーの大きさを制御できることがわかった。この結果は、オレフィンメタセシス反応が大環状共役化合物の合成にも有用なことを示す、重要な成果と考えられる。
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