(1)励起高スピンπラジカルの電子操作におけるスピン整列の検証 本研究課題で研究目的とした最重要課題である、光励起高スピンπラジカルの一電子酸化状態がスピン整列した状態であるという予測を実証できた。具体的には、光励起4重項状態をとる安定ラジカルをグローブボックス中で電位制御した電解酸化によりカチオン種とし、ESR、光学測定により基底三重項状態である事を証明した。三重項由来の微細構造とΔMs=2遷移の観測に成功し、温度変化測定から基底状態である事を確認した。電子状態計算からその電子状態の詳細も明らかにした。これにより、励起高スピンπラジカルが、スピン分極ドナーとしての性質を兼ね備えていることが明らかになり、これらを用いた物性制御への道が開けた。 (2)分子内電荷移動集積系を用いた電子操作と物性制御の研究 光誘起電子移動を分子内で起こさせる目的で、昨年度に続き良電子ドナーであるフェロセンを光励起4重項状態をとる安定ラジカルに導入した系の光励起状態を研究した。昨年度、この系でフェロセン部位から、アントラセン部位への光誘起電子移動により生じた電荷分離イオン対状態を経由した特異な動的スピン分極に由来すると考えられる時間分解ESR信号を見出していたが、本年度はスペクトルシミュレーションによりその解析に成功し、成果を論文としてまとめた。また、申請計画に従ってこのフェロセン系と適切な電子アクセプターとの電荷移動錯体の形成も試みた。さらに、アントラセン部位から機能性部位であるBODIPYへの光誘起電子移動が関与する特異な動的スピン分極を示した系についても、その詳細を解明した。これらの成果は、光励起高スピン状態の形成過程における光誘起分子内電子移動に対する重要な知見を与えるものであり、研究計画に記載した最重要課題の一つである「光イオン化による物性制御の可能性」に関する基礎的知見が得られた。
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