研究概要 |
本年度は、高分子材料中の架橋構造を解析する、新しい手法の開発を行った。具体的には、超臨界メタノール分解法を利用して、高分子試料中の元の架橋構造を反映した分解生成物を得て、それらをソフトレーザーイオン化(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)-質量分析法(MALDI-MS)を用いてマススペクトル上に観測し、架橋ネットワーク構造を詳細に解析することを試みた。ここでは、両末端に重合反応性のアクリレート基を有するネオペンチルグリコール(NPG)型二官能モノマーを、開裂型光重合開始剤存在下で、紫外線照射することにより十分に硬化した樹脂を調製して検討した。この硬化樹脂を、密閉したステンレス管中において300℃前後の超臨界状態のメタノール中で化学分解し、得られた分解生成物をMALDI-MS測定に供した。超臨界メタノール分解により、樹脂中のエステル結合において、エステル交換が進行する結果、架橋構造を反映したポリアクリル酸メチル(PMA)成分とNPG成分の分解生成物がそれぞれ得られる。それらを解析することにより、架橋点における連鎖長を始めとしたネットワーク構造の様々な情報を得ることが可能になる。実際に、NPG型紫外線硬化樹脂の適正化した条件における超臨界メタノール分解物の、典型的なMALDIマススペクトル上には、アクリル酸メチル(MA)モノマー単位に相当するm/z=86間隔で出現する一連のピークが、MAの60量体程度に相当するm/z=5,000付近の領域まで観測されている。このように、当該試料では、少なくとも60連子のアクリレート単位からなる架橋部を有するネットワーク構造の形成が確認された。
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