研究概要 |
本年度は,固相合成法に代わる新しい有機合成手法として注目されている,フルオラス合成法を用いるDNAの新規合成手法の開発を行った。現在確立されている固相法による核酸合成法は,少量かつ多様な塩基配列を有する目的物を迅速に合成するために最適化されており,アンチセンス核酸など,特定の塩基配列を有する比較的短鎖の核酸医薬を大量合成するには適さない。そこで,本研究では,化学量論的な反応が行える液相法の利点を生かしつつ,抽出操作のみで多段階反応を行うことのできるフルオラス合成法をDNAの化学合成に初めて適用することを検討した。まず,出発となるヌクレオシドを結合させる,高いフッ素含有率を有する担体として,多数のパーフルオロアルキル鎖を有する樹状分子である,フルオラスデンドロンを合成し,これにリンカーを介してヌクレオシドを固定化した。次に,核酸塩基部位にフルオラス保護基が導入されたモノマーの合成を検討し,4種類(T,C,A,G)のモノマーを得ることができた。得られたモノマーをフルオラスデンドロン上で逐次的に縮合反応を行い,オリゴヌクレオチド鎖を延長する反応および目的物のフルオラス抽出による精製法を詳細に検討し,オリゴマー鎖長延長工程を確立することができた。さらに,インターヌクレオチド結合の酸化反応,保護基の除去反応および目的物のフルオラス抽出条件を詳細に検討し,目的とするDNAフラグメントを良好な収率で得た。また,フルオラスデンドロン担体も高収率で回収することができた。このように,本合成法は,用いるフルオラス溶媒や担体を回収,再利用することが可能であり,グリーンケミストリーとしても極めて有効な手法であると言える。本研究によって新たに開発された核酸の新規フルオラス合成法は,今後,固相合成に代わる核酸の液相大量合成手法になり得るものと期待される。
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