研究概要 |
本研究は,タンパク質中に存在するイオウ原子の構造生物学的および遺伝学的な新機能を明らかとするために,タンパク質の立体構造が形成する原理(動的側面)と安定化の仕組み(静的側面)を有機化学的な視点からの様々なアプローチをとおして徹底的に解明することを目的としている。平成16年度は,研究初年度であり,主として研究環境の整備とデータベース解析を中心に研究を進めた。その結果,以下の研究成果が得られた。 1.タンパク質フォールディング試剤として新たに4種類の水溶性セレン試剤を合成し,これらの化合物がチオール基(SH基)に対して高い酸化活性をもつことが確認された。 2.セレン試剤を用いたリボヌクレアーゼ(RNaseA)のリフォオールディング実験を行い,SS結合の形成がほぼランダムに起きていることが確認された。これより,フォールディング初期の中間体には安定な立体構造は存在しないことが示唆された。 3.タンパク質構造データベース(PDB)の解析から,ホスホリパーゼA_2には5〜8個のS…OおよびS…N相互作用が存在し,これらは進化的にもよく保存されていることがわかった。 4.タンパク質の新しい化学修飾法を開発するために,アミノ酸のモデル分子としてシスタミン中のイオウ原子をセレン原子に置換する手法を開発した。 5.タンパク質立体構造の高速分子シミュレーションのためのSAAP力場の開発を進め,非経験的分子起軌道算により各アミノ酸のRamachandran型のポテンシャルマップを真空中(気相中に対応)でほぼ完成させた。 これらの研究成果をベースとして,平成17年度は,タンパク質フォールディン過程の詳細な検討,タンパク質中のイオウが関与する非結合性相互作用の詳細な解析,イオウを含むポリペプチドフラグメントの分子シミュレーションなどを計画している。
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