本研究では、有機レーザーダイオード(OLD)の開発を目的として、まず安定で強い可視発光を示すチオフェン・フェニレン・コオリゴマー(TPCO)の低次元結晶を用いて、無共振器下で誘導共鳴ラマン散乱(SRRS)現象に基づくレーザー作用が得られることを見出した。この光増幅効果は、大きな振動子強度をもつ遷移双極子が結晶中で一次元に高度に配向することにより現れ、分子振動のコヒーレンスに関与した現象であると結論づけた。TPCO結晶のSRRSは、低いASEノイズ、増幅波長のチューナビリティー、波長帯域の広さなどの特徴をもつことから、小型で集積化が可能な有機光増幅器やOLDへの応用が期待される。 次に、このTPCO材料のすぐれた発光増幅現象を電流励起によるOLDへ発展させるため、P/N接合型有機電界効果型トランジスタ(OFET)を作製してそのキャリア注入・輸送特性を評価した。N型分子のC_<60>とP型のTPCOを共蒸着または積層蒸着によりヘテロ接合させたOFET素子においてambipolar特性が得られ、電子と正孔の両キャリアの注入が可能であることが示された。 さらに、TPCOの真空蒸着薄膜を用いたOFET素子において、ソース電極にAu、ドレイン電極にAl:Liのように仕事関数の異なる金属を用いてトップ・コンタクト素子を作製した結果、負ゲート電圧印加時に電流注入発光が観察された。顕微鏡観察の結果、この発光は蓄積された正孔がドレイン電極界面で電子と再結合して生じたものであることがわかった。しかし、チャンネル内の活性層への電子注入は起こってないため、発光強度がまだ弱いものであった。 今後、OLDを実現するには、TPCOと同程度の高い電子移動度を有するN型有機半導体分子の探索と、チャンネル内での高効率のキャリア蓄積と再結合を可能にするP/N接合型OFETの素子構造の検討が課題である。
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