層状ニオブ酸塩-粘土混合ナノシートコロイドを利用する、光誘起電子移動系の組織化を試みた。ニオブ酸塩K_4Nb_6O_<17>の剥離ナノシートと粘土鉱物ヘクトライトの剥離ナノシートとを水に分散させた多成分コロイドを調製し、系にメチルビオロゲン(MV^<2+>)を加えて、光触媒であるニオブ酸塩ナノシートからMV^<2+>への光誘起電子移動が起こるかを調べた。まず、分光学的検討から、MV^<2+>は粘土に選択吸着することが分かった。我々はすでに、この混合コロイド中でニオブ酸塩と粘土の2種のナノシートがミクロレベルで相分離していることを、明らかにしている。混合コロイドの特徴とMV^<2+>の選択吸着とから、電子ドナーとして働くニオブ酸塩ナノシートと、アクセプターであるMV^<2+>を吸着した粘土とを空間分離させた特異なコロイド分散系が得られたと、結論した。このコロイドへ紫外光照射すると、ニオブ酸塩ナノシートからMV^<2+>への間の光誘起電子移動を生じ、メチルビオロゲンラジカルカチオン(MV^<+・>)を生成した。電子移動によって生じたMV^<+・>の減衰の半減期は、窒素雰囲気下で約10時間と求められた。これは固体層間化合物中のMV^<+・>の安定性に匹敵する。ニオブ酸塩ナノシート単独のコロイドにMV^<2+>を加えても、光誘起電子移動は起こるが、MV^<+・>の半減期は窒素雰囲気下で約2分と短い。層状ニオブ酸塩-粘土混合ナノシートコロイドを光反応場として用いることで、非常に長寿命の光誘起電荷分離を達成できることが分かった。この挙動は、ドナーとアクセプターの空間分離という、系の構造的特徴を反映していると考えられる。コロイド分散系でこのような安定な電荷分離状態を生じた例は、我々の知る限り、他に存在しない。
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