本研究対象材料のトリフィライト系列LiMPO_4化合物は、次世代大型リチウム蓄電池用電極の本命と位置づけられている。低い電子伝導性が課題として認識されており、その充放電速度は電極合剤作製法等の外的要因に強く依存するため、これまで内在的物性要因と外的要因を十分に分離した検討・速度論的考察がなされていない。本研究では、Li_xMPO_4の電気化学反応が2相反応系に分類されることからフラットな放電特性を示し、開回路電位に対して過電圧が明確に規定できることに注目し、微細構造が統一された電極合剤に対して一定過電圧下の電流緩和測定を系統的に行うことで、内在的物性要因によるオリビン格子中のFe^<3+>/Fe^<2+>(3.4V vs. Li/Li^+)とMn^<3+>/Mn^<2+>(4.1V vs Li/Li^+)の電気化学活性の違いを定量化した。この2種類のレドックス種は材料コストや環境適合性という点で極めて魅力的であるのに加え、発生電位がエネルギー密度と電解液の酸化分解に対する安定性を両立し得るポジションにあることから重要性が高い。 その結果、Fe^<3+>/Fe^<2+>・Mn^<3+>/Mn^<2+>の2桁以上にも達する大きな活性の違いが確認された。この現象の原因究明の出発点として、充放電時の両端組成に相当するLi(Mn^<2+>_yFe^<2+>_<1-y>)PO_4と(Mn^<3+>_yFe^<3+>_<1-y>)PO_4の2系列について、粉末X線リートベルト解析を行い、Mn置換量増加に伴うM^<8+>O_6八面体の構造変化が特異的に顕著であり、長距離秩序の消失が誘引されることを明らかにした。一方でM^<2;>O_6八面体、LiO_6八面体、PO_4四面体の構造変化はイオン半径や格子定数の変化から予測可能な範囲のものであった。これは、Mn^<3+>上に局在した3d電子と格子との相互作用が非常に強いことを示している。このように、電極機能と構造の相関が明確な形で捉えることができた。
|