本研究の目的である強誘電性高分子超薄膜における界面制御をおこなうために、成膜条件・処理条件を変えて生成した超薄膜構造を原子間力顕微鏡を用いて観察した。基板としてはアルミニウムおよび金を蒸着したガラス基板を用い、また熱処理条件、融解再結晶化条件を種々に変えたところ、多彩な表面構造が生成することを見いだした。融点以下での熱処理によって、表面の粒状構造の大きさが増大するが、熱処理温度が融点に近づくに従って基板の種類によって粒状構造の増大の仕方に差が現れた。また、融点以上に昇温したのち再結晶化させると、針状網目構造が見られるが、その網目サイズにも基板金属依存性が見られた。網目構造の内部に現れる板状晶には晶癖が現れることがあるが、条件によってはフラクタル状の外形を持つ板状晶が生成する。これは再結晶化の際に表面を分子鎖が拡散する過程が律速となったために現れたものと考えられるが、その特性長においても基板金属依存性が見られた。これらのことを総合することによって、基板の金属と高分子鎖との相互作用の大小が、生成する表面構造に大きな影響を与えていることが明らかとなった。生じる表面構造と熱処理条件の関係から、熱処理時に起こる構造形成機構についての解明を進めており、その知見を界面制御への指針とする予定である。さらに、今回の成膜条件の探索によって、従来は困難であった金基板上において良好な強誘電性高分子薄膜が生成する条件を見いだした。得られた金基板上の超薄膜の強誘電特性測定をおこなった結果、アルミニウム基板に比べてきわめて優れた強誘電性超薄膜であることが見いだされた。
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