研究概要 |
本研究は,表面粗さ構造の非定常性とミクロからナノにわたるマルチスケール性に着目し,潤滑膜の局所的破断が巨視的な潤滑不良に発展する過程を実験・理論両面から検討し,混合潤滑における潤滑破綻の機構を解明することを目的としている.本年度は,現有のEHL膜観察装置による潤滑下の摩耗過程の追跡,装置の製作,表面構造の非定常性・マルチスケール性の記述,潤滑剤枯渇のモデル検討を行った.摩耗過程の追跡では,超薄膜光干渉法を用いた摩耗量測定方法を開発し,ガラス円板-ガラス球面レンズ間の点接触EHL実験を行って潤滑膜厚と摩耗量の測定を行った.ナノメートルオーダーの摩耗の測定を可能にするとともに,局所的に開始し破局的に進展する摩耗過程を捉えることができた.摩耗によって生じた局所的凹部にはミクロな気泡の存在が認められ,これが潤滑膜の破断と摩耗拡大の原因であることが示唆された.装置の製作では,EHL膜観察装置に高速ビデオカメラを組み込むとともに,清浄雰囲気中で温度制御が行えるように装置主要部の設計変更を行った.表面構造の記述では,触針式表面粗さ測定器を導入して種々の表面トポグラフィーを測定し,一次元の連続ウェーブレット変換を適用して局所的な凹凸のサイズと配置を捉えるとともに,ウェーブレットスペクトラムから凹凸の配置モデルを検討した.潤滑剤枯渇のモデル検討では,摺動面に複数の表面突起が配列している場合のマイクロ気泡の形成を考慮に入れた流れの解析を行い,上流で形成された気泡が下流の凹凸部での流体膜形成を阻害する可能性を示した.
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