研究概要 |
体に障害をもつ人が車椅子ごと車に乗って移動する際の安全を評価するための,種々の走行条件時における車椅子座上中の健常者の頚部および頭部を始めとする身体各部に対する負荷を測定した.これまで,走行中の車内の車椅子の挙動や車椅子上の人体の挙動を定量的に評価した例はなく,車椅子に座上した人がどのような衝撃または振動を受け,どのような挙動をするのかわかっていなかった.そこで,実際使用されでいる車椅子搭載ワゴンを走行させ,車内の車椅子および車椅子に座上した人体の挙動を測定した. まず、シートと車椅子の座上位置に加速度計を取り付け、車内に取り付けられた一般のシートと車椅子の急停車時における挙動の違いを調べた.そして車を走行させ上下,左右,前後方向の加速度を測定した.なお,車椅子の固定にはワゴンにあらかじめ取り付けられた4点固定式のものを用いた. つぎに、被験者をリラックスした状態でワゴン内の車椅子に乗せ,ワゴンを急停車する走行実験を行い,人体各部の挙動を測定した.頭部と胸部に加速度計を取り付け,上下,左右,前後方向の加速度を測定した.また,頸部と腰部にゴニオメータを取り付け,それぞれの関節角度を測定した。また胸鎖乳突筋,板状筋に筋電センサーを取り付け,それぞれの筋活動度を測定した. 急停車時における車椅子Aとシートのx方向加速度を比較,および車椅子Bとシートのx方向加速度を比較した.車椅子Aとシートの加速度はほぼ同値であったが,車椅子Bの加速度はシートの加速度より絶対値が大きくなった.これは車椅子Aに比べ,車椅子Bは重量が大きく重心の位置が高いため,固定点に大きな慣性モーメントが負荷され,結果として車椅子の固定がしっかりされなかったと考えられる.このことより,同様の固定方法で固定しても車椅子の種類によっては固定が不十分な場合があり,車椅子に座上したまま車で移動する際は重量が小さく,かつ重心の低い車椅子を利用したほうが安全であると考えられる.次に、急停車時の座面に対する頭部の加速度および胸部の加速度を測定した.また,同急停車時の頸部に負荷されたトルクも測定した.首の後方への曲げを屈曲トルク,前方向の曲げを伸展トルクと呼ぶが,急停車によって頭部に慣性荷重が負荷され,まず頸部に屈曲トルクが働き,次に慣性荷重と逆方向に伸転トルクが頸部に働く.この伸展トルクは慣性荷重に抗する首の筋力によるもので,頭部の加速度を相殺するように筋が働き,姿勢を安定させている.同急停車時の板状筋の筋活動度を得たが,加速度が入力されてから数百ms後に筋活動が活発になっていることがわかった.今回の実験の被験者は健常者であったが,車椅子を利用するような筋肉に傷害を持つ人は慣性荷重に抗する筋力が働かず,結果として頚部への負荷が大きくなる可能性があることが判明した.
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