実験面では、金属基板上に超伝導膜が生成された実際のイットリウム系線材を用いて、線材並列時の常伝導転移特性について調べた。並列した線材間の電流分布をホールセンサにより測定する方法を開発し、2本の並列に接続したイットリウム系線材の常伝導転移時の過渡的な電流分布変化の測定に成功した。並列線材を電流源に接続し、全電流を時間と共に直線的に増加させるランプアップ試験を行った。線材と電流リードの接続抵抗のばらつきを十分に抑えることにより、常伝導部が発生する前の2本の線材の電流をほぼ等しくできる。はじめに片方の線材に常伝導部が発生すると、常伝導転移した線材から他方の常伝導部が発生していない線材に電流が転流することを確認した。この時点では、全体のクエンチには至らない。さらに、全電流を増加させていくと、超伝導状態を保っていた線材にも常伝導部が発生し、いったん転流していた電流がもとに戻り、両線材の電流が再びほぼ等しくなることが確認された。 計算機シミュレーションに関しては、薄膜近似に基づく有限要素電磁界解析と差分法による熱解析を連成した常伝導転移シミュレーションプログラムの開発を行い、まず、通電電流のみの場合の常伝導転移現象のシミュレーションを行った。その結果、通電電流のみの場合は、線材幅方向の電流分布や温度分布がクエンチに与える影響は小さいことがわかった。通電電流のみならず外部磁界が印加された場合の常伝導転移現象の解析を数値的に安定して行うためにはアルゴリズムの改良が必要なことがわかり、その改良に着手した。また、マルチフィラメント・イットリウム系線材のクエンチ解析を目指して電磁界解析プログラムを開発し、外部磁界下で電流を輸送するマルチフィラメント・イットリウム系線材の電流分布の時間変化をシミュレーションすることに成功した。
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