研究課題
本研究は、酸化物超伝導マグネットシステムの冷却として無冷媒の伝導冷却方式に注目し、従来の液体ヘリウムの冷却特性に基づく安定性理論、およびエネルギー回収条件に代表される超伝導マグネットのクエンチ保護理論等で構成されるマグネット設計指針から脱却して、酸化物超伝導線材を20K以上の温度領域で伝導冷却超伝導マグネットとして用いる場合の設計指針を導体構成法にまで踏み込んで学術的に構築することを目的としている。昨年度は、試作した伝導冷却Bi2223-1T超伝導コイルを用いて、その電磁的、熱的特性を実測し、直流・交流運転時の超伝導コイルの発熱量と冷凍機冷却能力の相対関係に基づく熱暴走等、伝導冷却コイルシステムとしての挙動を実験的に明らかにした。今年度は、伝導冷却超伝導コイルにおける普遍的概念の抽出を念頭において、まずは巻線に用いた超伝導線材の電流-電圧特性および交流損失の測定結果から、この伝導冷却酸化物超伝導コイルの発熱分布の温度依存性を定量的に把握して数式化した。これを基にコイルの熱・電磁特性の数値解析を行って、コイル挙動を模擬しうるのか、すなわち、熱的・電磁気的パラメータを定量的に把捉し得たのかを検証し、さらに局所的な温度上昇のメカニズムを追求し、熱暴走現象の定量的解明を試みた。その結果として、1)直流、交流運転時ともに、温度分布まで含めた冷凍機による伝導冷却コイルシステムの挙動が数値解析により定量的にシミュレーション可能であることを確認し、2)熱暴走電流の熱暴走に至る直前の超伝導巻線温度依存性は直流、交流ともに同じであるが、交流運転時には交流損失値に応じた数分から数時間に及ぶゆっくりとした温度上昇期間が存在し、これがコイルの過負荷耐量として定義され交流損失すなわち通電電流値、周波数、温度の関数であることを示し、3)周波数に依存しない熱暴走流値および交流運転時の過負荷耐量が、冷凍機の冷却能力、巻線内熱伝導率、冷却パス等、伝導冷却マグネットシステムの冷却構造に大きく依存していることを定量的に明らかにし、安定性向上には損失の低減のみでなく冷却構造の最適化が重要であることを示した。
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