電圧によるスピン分極制御に向けたスペーサ極薄強誘電体TaOx薄膜の形成方法について検討を行った。Taの安定な酸化物である、Ta_2O_5を生成するためには、従来高温酸化が必要である。本研究においては、高いエネルギーを表面近傍に局所的に印加しながら酸化することが出来る、イオンアシスト酸化法について検討を行った。これは、100eV程度の弱いArイオンビームを酸素ガス雰囲気中で照射する酸化方法である。 Fe層上のTa酸化後に上部Fe層を成膜し、CPP素子を微細加工することで、得られたTa絶縁膜の電気特性を調べた。酸化は下部Fe層の磁化が酸化によって、ちょうど失われない程度の酸化時間である。試料の抵抗は時間とともに変化し、微小なMR変化に伴う抵抗のとびも小さく、負の値である。これは、Taの酸化が不十分であり、測定中の微細な電気ショックによって、TaOxの酸素の配置が変化しているためであると考えられる。より安定なTa酸化物を得る方法として、Arイオンのエネルギーをさらに下げて60eVとした。この理由として、より低いエネルギーの場合Arイオン照射に伴うTa中の酸素の拡散距離が短くなることで、酸化がFe層に達するまでに十分な酸素を吸収することが出来る。実際この方法で得られたTaOxのXPS観察を行うと、TaOxは安定なTa_2O_5組成となっていることが分かり、強誘電体であるTa_2O_5を得る方法としても有効であることが明らかとなった。このようにして得られた試料の抵抗値は数10kΩとなり、良質な絶縁層となることが分かった。素子のR-V特性を見るとトンネルバリアに見られる非線形な曲線による抵抗の減衰が得られた。また断面TEM観察により1.8nm程度の極薄絶縁体の形成を確認できた。本研究により強磁性金属上に極薄強誘電体Ta_2O_5を作製する方法を確立した。この極薄強誘電体Ta_2O_5を用いて電圧によるスピン分極制御に関する研究を継続して行う。
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