研究概要 |
本研究は,層状酸化物高温超伝導体Bi_2Sr_2CaCu_2O_y(BSCCO)単結晶に内在する固有ジョセフソントンネル接合超格子のメゾスコピック現象に関する新たな機能を創出することを目指すのもであり,本年度は以下の成果を得た. 1.固有ジョセフソン接合における発熱効果の評価 昨年度に引き続きBSCCO単結晶を電子ビームリソグラフィにより数ミクロンからサブミクロンサイズのメサ型素子(接合面積:16〜0.49μm^2)に加工し,その電流-電圧特性を評価した.接合面積が大きい試料では発熱効果により電流-電圧特性上に負性抵抗が現れ,4.2Kにおいても発熱により試料の等価温度が約60K程度上昇することがわかった.また,超伝導状態から電圧状態へのスイッチング電流の確率分布を評価したところ,低温になるほど多数接合のスイッチングモードに依存した確率分布が得られることがわかった. 2.固有ジョセフソン接合を用いた量子干渉素子の作製 固有ジョセフソン接合を用いた量子干渉素子を作製し,その動作特性を評価した.その結果,対称性の良い明瞭な量子干渉現象の観測に成功した.また,良好な量子干渉現象を得るための最適条件についてシミュレーションにより検討した. 3.磁性体/超伝導体ハイブリッド素子の試作と特性評価 Fe(あるいはCo)/BSCCO固有ジョセフソン接合からなるハイブリッド素子を作製し,固有ジョセフソン接合特性に対するスピン注入の影響について評価した.その結果,スピン偏極電子の注入効果による臨界電流の減少が確認され,同素子によのスピン注入デバイス応用への足掛かりを得ることができた. 4.固有ジョセフソン接合におけるボルテックスダイナミックスの解明 固有ジョセフソン接合におけるボルテックスダイナミックスに対する熱ゆらぎの影響をシミュレーションにより検討した.その結果,有限温度においてバイアス電流が低い場合,位相同期効果が期待されるサブミクロンサイズの接合においてもランダムな熱活性ボルテックスフローが生じ,多数接合の同期現象が観測されないことがわかった.
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