CrO_2はほぼ100%の分極率を有するハーフメタルであることが理論的にも実験的にも明らかにされており、磁気トンネル接合素子の強磁性層など、スピンエレクトロニクス素子への応用が期待されている。特にCrO_2粉末をコールドプレスした成型体では、PMR(Powder Magneto Resistance)効果と呼ばれる磁気抵抗変化が確認されており、CrO_2粉末表面に形成される表面層がトンネルバリア層として機能するために生じる強磁性粒子間のスピン依存トンネル伝導がそのメカニズムと考えられている。CrO_2のPMR効果を実センサとして応用するための最大の課題は、CrO_2のキュリー点が約400Kと低いことであり、これを上昇させることが、センサの室温動作に不可欠の要素である。 研究代表者らのグループでは、より簡便な固相反応を利用したメカニカルアロイング法によるCrO_2粉末の合成に成功している。本年度は、CrO_2のPMR効果に及ぼす元素添加効果を明らかにするために、メカニカルアロイング法によって(Cr-M)O_2粉末の合成を行い、その粉末成型体の物性評価を行った。その結果、CrO_2への元素添加はPMR効果に影響を及ぼし、V(バナジウム)もしくはCo(コバルト)を添加した場合はMR比が低下し、Fe(鉄)もしくはMn(マンガン)を添加した場合はMR比が増大することを見出した。特に、Feを5at%添加した場合においては、何も添加しない場合に比べて約3倍のMR比が得られ、4.2Kにおいては22%に及ぶMR比が得られた。FeもしくはMn添加の場合のMR比の増大の原因を明らかとするために、粉末成型体の電気抵抗率の温度変化を計測し、その変化から粒間トンネル障壁層の障壁高さと幅を求めた結果、MR比の増大はトンネル障壁特性の変化によるものであることが明らかとなった。
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