研究概要 |
佐賀県鹿島市七浦干潟を調査地とし,調査には,同地点に設置した自動昇降型の水質測定装置を用いた。調査の結果,1潮汐間のSS分布から,上げ潮では沖から干潟面上に流れ込む水塊フロントの強い乱れのため干潟底泥が多量に巻き上げられ,急激なSS上昇の観測とともに底層部での高SS水塊の挙動など,一連の周期的変動を明らかにした.また,SSの存在量W_s(kg/m^2)と底面流速V_b(m/s)の経時変化から,底面流速V_bに呼応する形で干潟直上水中に存在するSS量も増減した.ただし,底泥の巻き上げ限界に相当する流速V_<ce>(≒0.1m/s)以下ではその相関が見られなくなった.さらに,水平方向のフラックス量を深さ平均SSと深さ平均流速Vとの積の形で正味のフラックス量を見積もると,2週間程度で岸側におよそ0.1mm厚オーダーで堆積することが概算された. 底泥の巻き上げによる水中のT-N, T-P濃度の変動はいずれもSSの挙動に強く依存し,上げ潮初期のSSと干出時の干潟底質のTN, TP値から概算される水中濃度はほぼ等しいことから,巻き上げられた底質とともに栄養塩成分がそのまま水中に供給されることがわかる.溶存態リンについてはSSとの明瞭な相関は見られず,干潟上1周期間での底質の巻き上げによるリンの水中への溶出に関する寄与は低いものと思われる.さらに,底質乾燥試料中の栄養塩量の結果から,七浦干潟での底質中のT-Pのうち直上水の水質に影響しているのは有機態リン成分と考えられ,これはT-Pの約80%を占めることになる. 有明海湾奥部でのSS輸送に関わる数値計算結果から,湾奥部に沈積する年間のSS量は有明海全体の54%にも及び,その分布は今回の現地調査地点の湾奥部海域ほど大きいことが明らかとなった.また,湾奥部を中心とした5地点でのマクロベントスと底質の通年調査から湾奥西部海域での底質環境の悪化とともに各種指標(AVS,中央粒径,ORP, Chl-a)と生息密度との関係を示した.
|