研究概要 |
1.佐賀県鹿島市七浦干潟に設置した自動昇降型水質測定装置を用いた長期観測より,一連の周期的変動を明らかにした.また,底泥の巻き上げによる水中のT-N,T-P濃度の変動はいずれもSSの挙動に強く依存し,巻き上げられた底質とともに栄養塩成分がそのまま水中に供給されることがわかった.一方で,底泥の巻き上げによって水中に放出されたリンの7〜8割は再び懸濁物に吸着される. 2.干潟上の水中懸濁物をセジメントトラップにより採集した結果,沈降フラックスが大潮時で2.54kg/m^2/day,小潮時で0.46kg/m^2/dayであった.これら沈降フラックスの平均値と地盤高変化は必ずしも一致せず,観測された沈降フラックス値の7〜8割は波や流れにより再懸濁し,水中に回帰しているといえる.また,各観測塔におけるSS輸送量,各区間での正味の輸送量および見かけの巻き上げおよび沈降フラックスを求め,各観測塔区間での底泥の巻き上げおよび堆積傾向を明らかにした. 3.夏季・小潮の深水域・底層部で貧酸素水塊が確認され,これが干潟上を遡上する様子が確認された.また,深水域で採取した底泥の酸素消費速度は,平均して50.3(mgO_2/m^2/h)であった.さらに,底泥を強制的に巻き上げさせた場合,単位時間当りの巻き上げ量が増加すれば,それに伴い酸素消費速度も上昇した.これらは,夏季に干潟周辺域で観測される貧酸素水塊の生成に底泥や懸濁物の酸素消費が関与している可能性を示唆するものである. 4.アゲマキガイに関する生息因子として,塩分,水温,底質,粒度及び地盤高を行い,それぞれの選好性を評価した.また,これらを乗じた評価式にて,かつてアゲマキガイが多数生息した鹿島・七浦干潟でも底質改善による底質環境を改善することで,アゲマキガイの人工漁場を造成することは可能である事を示した. 以上の研究成果は,有明海の環境変化のメカニズム,特に干潟環境についての貴重な資料に資するといえる.
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