研究概要 |
万人にとって最適な条件を満たすデザイン,すなわちユニバーサルデザインを考慮した,公共空間における音声・音響情報伝達手法を確立することを最終目的とし,以下の研究を行った. 1.公共空間の環境音の実測調査 背景騒音の物理特性を予測する手法を明らかにするために,計20駅の地下鉄駅とある空港ロビーを実測した.その結果,地下鉄駅の背景騒音の騒音レベル及び周波数特性は,各駅の乗降客数からある程度予測できることを明らかにした.空港ロビーについては,1施設しか実測できなかったが,背景騒音の物理特性が,利用客数が中程度(2万〜5万人/日)の地下鉄駅と似ていることを明らかにした. 2.「聴き取りにくさ」による音声情報伝達性能の)評価 従来の音声伝達性能の主観評価指標よりも,高感度かつ実際に即した評価が可能な「聴き取りにくさ」による主観評価方法を提案した.その「聴き取りにくさ」を用い,以下を明らかにした.(1)公共空間における音場の範囲において,音の空間特性は「聴き取りにくさ」に有意な影響を与えない.(2)既存の音響物理指標を用いて,健常者と高齢者の「聴き取りにくさ」をそれぞれ予測できる.(3)健常者と高齢者の両者にとって聴き取りにくくない音声の受聴レベルが存在する. 3.公共空間におけるアナウンスの親密度に関する基礎的研究 万人にとって音声情報を聴き取りやすくする方法として,音声情報を「なじみ」のある単語で構成する方法について基礎的な検討を行った.その結果,同じ単語に対する親密度は若齢者よりも高齢者のほうが高い場合が多いこと,生声のアナウンスで用いられる単語は,放送マニュアルに記載されている例と比べて親密度が低いことを明らかにした. 以上の研究成果は,公共空間における音声・音響情報伝達システムを最適化する際に有用な設計資料となるものであり,特にユニバーサルデザインを考慮したシステムの設計に資するものである.
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