本研究では、円偏光を直接遷移型半導体GaAsに照射してGaAs中にスピン偏極電子を励起し、そのスピン偏極電子を磁性体に注入することで、磁性体によるスピンフィルター効果を検討することを目的としている。 Fe超薄膜/GaAs、Fe超薄膜/MgO/GaAs、Fe_3O_4エピタキシャル接合試料を超高真空スパッタおよび反応性MBE法を用いて作製することに成功した。これらの試料に対して、GaAs基板面に垂直に磁場を印加し、波長800-850nmの円偏光をGaAs基板に照射し、その際、磁場方向と円偏光の進行方向とが平行、反平行の状態に対してそれぞれ、GaAsとFeの間を流れる光電流のヘリシティ依存性を計測した。その結果、いずれの試料に対しても、ヘリシティ依存光電流の明瞭な磁場依存性を観測することに成功した。次に、磁場印加下におけるヘリシティ依存光電流のバイアス電圧依存性の測定を行った。逆方向バイアスでは磁気円二色性によると考えられる信号が観測された一方で、Fe超薄膜/GaAs試料に対して、順方向バイアスでFe超薄膜によるスピンフィルター効果と考えられるヘリシティ依存光電流の特徴的な構造が観測された。しかしながら、スピン選択率は数%程度に留まり、MgOトンネル障壁層の挿入によるスピン選択率の顕著な増大は観測されなかった。この結果は、MgOトンネル障壁層の平坦性やリーク電流の存在によると推察される。また、Fe_3O_4/GaAs試料に対しても、ゼロバイアス近傍でFe_3O_4超薄膜によるスピンフィルター効果と考えられるヘリシティ依存光電流の特徴的な構造が観測された。 以上の結果は磁性合金(金属)を用いることで、スピンフィルター効果により半導体中のスピンを検出することが可能であることを示唆している。更なるスピン検出効率の向上のためには、原子レベルで平坦な磁性薄膜の成膜技術の確立が必要であると考えられる。
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